主治医から「復職可能」という診断書が届いたとき、人事担当者はほっとする半面、「いきなり元の勤務に戻して大丈夫か」という不安を感じるのではないでしょうか。その懸念は正しい直感です。段階的な職場復帰を支援する「リハビリ勤務(ならし勤務)」を制度として整備しないまま、曖昧な「お試し出社」を行うと、給与・労災・期間をめぐる深刻なトラブルに発展するリスクがあります。本稿では、人事担当者が押さえるべき制度設計のポイントを整理します。

主治医の「復職OK」と職場の「業務可能」の間にある巨大なギャップ

「先生から復職していいと言われました」と診断書を持参する休職者を、そのままフル勤務に戻すのは非常に危険です。主治医が「復職可能」と判断する基準は「日常生活が概ね送れること」であり、通院・服薬・食事・睡眠が安定していれば診断書は書かれます。一方、職場が求めるのは「8時間継続して業務をこなし、一定の成果と責任を担えること」です。この二つの基準には大きなギャップが存在します。

厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」でも、復職は5段階のステップを踏むことが推奨されており、段階的な業務負荷の引き上げが再休職防止の鍵とされています。産業医の役割はまさにここにあり、「主治医の診断」を踏まえつつ、「職場の実情に照らした就業可能性の評価(産業医意見)」を行うことで、企業の安全配慮義務を具体的に果たすことができます。

人事の落とし穴:曖昧な「お試し出社」が招く3大トラブル

制度的な根拠なく「とりあえず来てみて」と行うお試し出社には、三つの重大リスクが潜んでいます。

  • 給与の支払い義務:休職中の扱いであれば無給または傷病手当金の受給が継続されますが、「出社している」という実態があると、賃金請求権が生じる可能性があります。労働基準法上、使用者の指揮命令下に置かれた時間は労働時間に当たるからです。
  • 労災認定リスク:復職後に業務起因で病状が悪化した場合、リハビリ期間中の出社が「業務遂行中」と判断されれば、労災請求の対象になり得ます。
  • 期間の曖昧さ:「様子を見ながら」という運用は、本人・上司・人事それぞれが異なる期待を持ち、出口のない状態を生み出します。その結果、休職期間の満了日が曖昧になり、自動退職の効力そのものが争われるリスクも生じます。

実務的な制度設計ステップ:就業規則への明文化が最初の一歩

リハビリ勤務制度を正しく機能させるためには、就業規則への明文化が不可欠です。設計の核心となる三点を整理します。

①労働者としての位置づけ
リハビリ勤務期間中を「休職期間の延長(休職中)」と位置づけるか、「試し的な就業(復職後の試用的期間)」とするかを明確に規定します。多くの企業では「休職期間の範囲内」として扱い、傷病手当金の受給継続を妨げない設計を採用しています。

②給与と手当の設計
休職中扱いとした場合、給与は原則無給となりますが、交通費支給など個別に決めるべき事項が生じます。傷病手当金との二重受給にならないよう、健康保険組合への確認も必須です。

③段階的な負荷調整プラン
半日勤務(午前のみ)→軽作業への従事→通常業務の段階的な引き上げ、という具体的なスケジュールを産業医と協議のうえ書面化します。「来週から普通に働けますか」ではなく、4〜8週間のロードマップとして設計することが再休職防止の鍵です。

まとめ:トラブルを防ぐ「リハビリ勤務規程」の整備を今すぐ

リハビリ勤務の制度が整っている企業は、復職後の再休職率が低く、労務トラブルのリスクも大幅に軽減されます。「お試し出社」という曖昧な慣行を卒業し、就業規則にリハビリ勤務規程を明文化することが、企業と従業員の双方を守る最善策です。制度の設計に迷ったときは、ぜひ産業医にご相談ください。従業員の回復を、組織全体で丁寧に支える文化が、健康で持続可能な職場をつくります。