休職期間の満了が迫り、あるいは傷病手当金の支給終了が近づくと、実際の体調とは裏腹に「もうすっかり元気になりました」とアピールする休職者が多く現れます。この訴えを額面通りに受け取り、早期に復職させてしまうと、高い確率で再休職に至ります。そして二度目の休職は、一度目よりも回復に長い時間を要し、本人の病状をさらに悪化させることが多くの臨床例から示されています。本稿では、産業医が復職面談で何をどう見極めているかを解説します。
焦る休職者の「大丈夫です」に潜む再休職リスク
うつ病や適応障害の回復過程には、精神医学的に「気分の波」が必ず存在します。調子の良い日が2〜3日続いたとき、本人は「もう治った」と感じ、強く復職を望みます。しかしこれは「良い波の頂点」にいる状態であり、職場環境・人間関係・業務負荷に再度さらされたとき、その波は急激に落ち込む可能性があります。
特に「満了が近い」「お金が底をつく」という焦りが加わると、本人は自分の体調を過大評価し、「働けます」という強い意思表示をします。人事担当者が「本人がそう言っているなら…」と配慮から復職を許可することは、善意の行為ですが、医学的には危険な判断になりえます。
再休職の悲劇:中途半端な復職が本人と職場に与えるダブルのダメージ
「復帰したのにまた休んでしまった」という経験は、本人に深刻な自己嫌悪と絶望感をもたらします。「自分はもう社会で働けないのではないか」という回復への自信の喪失は、治療の長期化と重症化に直結します。
職場側でも、再休職による業務の引き継ぎ混乱、チームメンバーへの負担増、採用・引き継ぎコストが再び発生します。最初の段階で適切に見極め、確実な状態での復職を実現することが、本人と組織の双方にとって最善です。
本人の「言葉」以外でチェックすべき客観的な5つの指標
産業医が復職面談で重視するのは「言葉による訴え」よりも「生活の実態」です。以下の項目を具体的に確認します。
①睡眠リズムの安定:「夜11時に就寝し、朝7時に自然に目が覚める」というリズムが2週間以上安定して続いているか。眠れない・寝過ぎる・昼夜逆転が残っている場合は、まだ回復途上です。
②日中の活動性:図書館やカフェなどに午前10時から午後3〜4時まで滞在し、読書や軽作業ができているか。「家でゆっくり休んでいます」という状態は、通勤・着座・集中という職場の基本要件を満たしているとは言えません。
③集中力と判断力の回復:新聞や本を30分以上集中して読めるか。簡単な計算や段取りを組むことに支障がないか。認知機能の回復は睡眠と活動性の回復より遅れることが多く、「体は動くが頭がついてこない」状態の見極めが重要です。
④ストレス耐性の試し:通勤ラッシュに乗れるか、混雑した場所に2〜3時間滞在できるか。身体的な疲れが出やすい状況への耐性を実際の行動で確認します。
⑤感情の安定性:些細なことで涙が出る、怒りが抑えられない、といった感情の不安定さが消えているか。
「生活記録表」の正しい活用法
生活記録表とは、起床・就寝・外出・活動内容を毎日記録するシートです。本人の「大丈夫です」という言葉と、記録表に現れる生活の実態の「ブレ」を確認することが、産業医にとって非常に有用な情報源になります。睡眠時間が日によって大きく異なる、外出ゼロの日が多い、活動が「テレビを見ていた」のみが続く——こうした記録は、言葉以上に回復の実態を示します。
まとめ:焦らず確実に。「二度と休ませない」ための復職プロトコル
復職は「早ければ早いほど良い」ではありません。「確実であればあるほど良い」です。生活記録表の活用、客観的な5指標の確認、段階的なリハビリ勤務との組み合わせにより、再休職のない復職を実現してください。本人の回復への焦りに寄り添いながら、「もう少しだけ丁寧に準備しよう」と伝えられる産業医との連携が、職場復帰の成功率を大きく高めます。