「忘れ物が多く、同じミスを繰り返す」「コミュニケーションのずれが大きく、チームがまとまらない」——こうした社員の問題の背景に、ADHDやASDといった発達障害の特性が関係していることがあります。「やる気の問題」で片付けず、特性に合った配慮(合理的配慮)を行うことが、本人の能力発揮と職場全体の生産性向上につながります。

ADHD・ASDとは——職場での現れ方を知る

ADHD(注意欠如・多動症)は、「注意を持続させることが難しい」「衝動的に行動しやすい」「計画的に行動するのが苦手」という特性を持ちます。職場では、締め切りを忘れる、優先順位をつけられない、会議中に集中できない、同じミスを繰り返す、といった形で現れます。

ASD(自閉スペクトラム症)は、「社会的コミュニケーションの困難」「こだわりの強さ」「感覚過敏・鈍麻」という特性を持ちます。職場では、暗黙の了解が理解しにくい、急な変更への適応が難しい、雑談や場の空気を読むことが苦手、特定の作業には驚くほど集中できる、といった形で現れます。

成人のADHDは人口の約3〜5%、ASDは約1〜2%程度存在すると推定されており、多くの職場に発達障害の特性を持つ社員が一定数いることは珍しくありません。また、診断を受けていない「グレーゾーン」の方も多く、「なぜあの人だけうまくいかないのか」という状況の背景に特性が関わっていることがあります。

2016年施行の「障害者雇用促進法」改正により、精神障害(発達障害を含む)者への合理的配慮の提供が事業主に義務づけられました。合理的配慮とは「障害者が他の労働者と均等に働ける機会を確保するために、過度な負担にならない範囲で行う措置」のことです。

ADHD・ASDそれぞれへの具体的な配慮の例

ADHDへの配慮

①タスクを細かく分割して具体的な締め切りを設定する(「今週中に」ではなく「火曜日の15時までに」)。②タスク管理ツール(ToDoリスト・カレンダー通知)の活用を促す。③作業環境の静音化や個室利用を許可する(雑音で集中が途切れやすいため)。④口頭指示だけでなく書面・メールで指示を補完する。⑤定期的な進捗確認の機会を設け、早期にミスを発見してフォローできる体制を整える。

ASDへの配慮

①業務内容や手順を明確にマニュアル化し、「なぜそうするのか」の理由も説明する。②変化が生じる際は事前に十分な余裕をもって伝える(急な変更への適応が難しいため)。③コミュニケーションは明確・具体的に(「いい感じにやっておいて」ではなく「○○を△△の形式で□日までに提出して」)。④感覚過敏がある場合は、照明の調整・座席位置への配慮を行う。⑤特定分野への高い集中力やこだわりを強みとして活かせる業務配置を検討する。

共通して重要なのは、「一律の配慮ではなく個別の確認」です。同じADHDでも、静かな環境が得意な人もいれば、軽い音楽があると集中できる人もいます。本人との対話を通じて最適な形を探ることが、配慮の本質です。

職場での相談・支援体制の整え方

発達障害への対応は「本人・上司・人事・産業医」の4者が連携することで初めて効果を発揮します。

本人との対話:「どういう状況で困っているか」「どんなサポートがあればやりやすいか」を本人に直接聞くことが最も重要です。特性は人によって異なるため、「ADHD/ASD全員に同じ配慮」は機能しません。

上司への研修:「やる気がない」「わがまま」という誤った理解が、職場での孤立やハラスメントの原因になることがあります。発達障害の特性に関する基本的な研修を管理職向けに定期的に実施することが有効です。

産業医の活用:産業医は、本人の特性アセスメントの補助、就業上の配慮に関する意見提供、外部の障害者就労支援機関(ジョブコーチ)との連携サポートを行うことができます。

明日から試せることとして、「困っている社員に対して『なぜできないのか』を問うより、『どうすればやりやすいか』を聞く」という問いかけのスタンスに変えてみてください。

まとめ

ADHD・ASDを持つ社員への対応は、特別扱いではなく「その人に合った環境を整えること」です。適切な配慮によって本来の能力が発揮される瞬間は必ずあります。発達障害の特性を理解し、個別の配慮を試行錯誤しながら積み重ねることが、多様な個性が活きる職場づくりにつながります。一人ひとりの違いを強みとして活かせる組織は、変化に強く、創造性も高くなります。まずは「正しく知る」ことから、始めてみましょう。